ロンドン戯画

 1903(明治36)年2月10・18日に、那智山麓大阪屋から田辺の素封家多屋寿平次の二女たかにあてたもの。「正月祝ひに絵ハガキ一つ差上候。委細は勝つ長(注、兄多屋勝四郎)より御聞取下されたく候」として二枚続きの絵はがきを贈った。
 ロンドン時代の戯画でシルクハットをかぶっているのが熊楠。眼帯は栗原金太郎、それに骨董店主加藤章造。
 同年の2月9日、那智山麓市野々の大阪屋に移っていた熊楠は、突然たかから手紙を受け取った。熊楠は同日夜、ただちに長文の返書を書いた。更に翌10日にはパブの様子を描いたロンドン生活戯画のはがき、11日も、「鳥の足のあとも定かに見えぬ迄にこひにけらしなわれならなくに」と歌を記し、今日より柚柴の和尚と自ら呼ぶことと致す、と述べた葉書を送っている。たかも、この長文書簡と二通の葉書に対する礼状を14日夜にしたためている。