第4回特別企画展(終了)


イベント詳細


「熊野無花植物 -南方熊楠の生物・生態学関連資料の紹介と研究報告-」

タイトルの「熊野無花植物」は,1902年1月に南方熊楠が那智の市野々で下宿するようになってから,日記中にしばしば見られるフレーズです。米英遊学から帰国した熊楠は,花が咲かない植物,菌類(キノコ)や藻類を中心に,まず和歌山で植物採集調査を始め,那智へ移ってから,更に多種多様な植物を集めることになります。南方熊楠顕彰館には那智で採集されたシダ類を始めとして,昆虫や甲殻類などの標本も含めて数多くの生物・生態学資料が残されています。このような直接的な生物学関連資料だけでなく,粘菌学者の小畔四郎との間で交わされた手紙,そして「南方二書」などの書簡類も生物・生態学関連資料といえます。さらに,菌類図譜,粘菌・藻類・蘚苔類・地衣類などの標本は国立科学博物館植物研究部に保管されており,これらを合わせると熊楠が遺した生物に関係する資料の量は膨大なものとなります。
現在,主に自然科学を専門とする研究者のグループによって,このような生物・生態学関連資料から熊楠の思考体系,学問体系を明らかにしようという研究が,南方熊楠顕彰館と連携して進められています。今回の展示は,この研究の経過報告という位置づけでもあります。
(京都工芸繊維大学/南方熊楠顕彰会理事 岩崎仁)

展示会場は次に示す各コーナーで構成されています。
● 藻類コーナー(国立科学博物館所蔵の藻類標本とその周辺)
● 粘菌コーナー(引き裂かれた粘菌リスト,新出の小畔書簡)
● シダ類・高等植物コーナー(在米時代の顕花植物,那智時代のシダ類)
● 蘚苔類コーナー(顕彰館・国立科学博物館所蔵標本の紹介)
● 地衣類コーナー(地衣類標本,孫文との関わり)
● 新聞切り抜きコーナー(熊楠は新聞から何を読んだか?)
● テキストと画像の統合型データベース(日記と書簡・菌類図譜・書簡の関係性)
● 熊野フィールドワークマップ(熊楠が植物を求めて歩いた熊野…)

【藻類コーナー】
熊楠が帰国後に情熱を注いだ藻類研究の内,特に淡水藻にスポットを当てて紹介します。展示される標本や画像の多くが,はじめて公の場所に姿を見せる貴重なものです。淡水藻類を台紙に貼りつける手法(さく葉標本)や珪藻類以外の微細藻類を永久プレパラートにする手法は非常にめずらしく,いずれも一世紀という長い年月を経て一部がはがれ落ちたり変色したりしたものもありますが,熊楠が試行錯誤しながら標本を後世に残そうと苦心した様子を伺うことができます。特に琥珀色に変化したプレパラートは,100年の時の流れと熊楠が目にしたミクロの世界を再現してくれます。このコーナーの注目すべき展示品は,国立科学博物館所蔵で未報告藻類資料の中から淡水藻を中心とした10点余りの実物標本です。また『生きた状態の藻類(アミミドロ,イシクラゲ等)』を顕微鏡で観察できるようにセットします。
【シダ類・高等植物コーナー】
在米時代の顕花植物として,アナーバーで採集した高等植物数点,スケッチや書き込みのある標本(一部,彩色されたスケッチ入り)を展示します。また,那智時代のシダ類として,熊野山中で採集した大型のシダ,リュウビンタイなどを展示します。
【蘚苔類コーナー】
顕彰館に収蔵されている,当時の新聞紙に挟まれたままの蘚苔類標本を展示します。蘚苔類や以下の地衣類の標本は,熊野で熊楠自身が採集し,館に保管されている資料で,今回が初めての公開となります。また,つくばの国立科学博物館所蔵南方熊楠コレクションの蘚苔類標本についてもパネルで紹介します。
【地衣類コーナー】
孫文から熊楠へ寄贈された地衣類標本を,今回特別に科博から借用して展示します。この地衣標本を仲立ちとして,熊楠と孫文との交流を紹介します。孫文研究会作製のビデオも御覧いただけます。他に,顕彰館に収蔵されている新聞紙や缶,紙箱などに収められた地衣類,特に,石などに着生したままの地衣標本を展示します。
【テキストと画像の統合型データベース】
那智時代の日記を中心に,ネイチャー掲載論文,小畔四郎宛書簡,菌類図譜などをコンテンツとしたデータベースをご自分で操作していただけます。熊楠が日記本文中に描いた挿し絵は,これらの資料や南方二書との関係性をさぐる鍵となります。
【担当】
藻類コーナー/坂東忠司、萩原博光
粘菌コーナー/萩原博光
シダ類・高等植物コーナー/土永知子
蘚苔類コーナー/土永浩史
地衣類コーナー/岩崎仁、萩原博光
新聞切り抜きコーナー/安田忠典
テキストと画像の統合型データベース/岩崎仁
熊野フィールドワークマップ/安田忠典、中瀬喜陽、土永浩史、土永知子

開催期間 2008年3月22日(土)~5月11日(日)
会場 南方熊楠顕彰館 学習室
観覧料 無料